REIT(リート)投資とは?ベテラン不動産投資家がREITを避ける理由

居宅不動産(レジデンシャル)のポートフォリオに特化したプライベートエクイティファンドの共同経営を担っている中山道子です。もともと、対米不動産の投資家として20年前にこの道に入り、その後、いろいろな経験を経て、ここまで来ました。ブログは2004年ころからやっているので、過去のブログから付き合っていただいている方は、この間の紆余曲折はご承知の通り。

今日のトピックは、リート(REIT)、つまり、不動産投資信託ってどうなの?ということ。

前倒しの私自身の結論は、以下の通り。

REIT(不動産投資信託)は少額・流動性・分散に優れ、配当収入を得やすい器。
一方で、税制上の設計により課税所得の90%を分配するため、内部留保が薄く、成長は外部資金依存になりがち。相場の低迷や金利上昇局面では、配当と価格の両方が揺らぐリスクがある。

です。より細かく見ていきましょう。

そもそもリートって何?

REIT(リート)とは「Real Estate Investment Trust」の略で、不動産投資信託のことです。

投資家から集めた資金でオフィスビル、商業施設、住宅などの不動産を購入・運営し、その賃料収入や売却益を分配金として投資家に還元します。

株式と同じように証券取引所で売買できるため、少額から流動的に不動産投資ができる金融商品として人気です。

日本ではREITに相当する制度は「投資法人」と呼ばれますが、証券市場ではわかりやすく「J-REIT」と呼ばれます。法律上は、不動産投資信託ではなく、不動産投資法人という扱いだからです。

米国のREITも日本のJ-REITも共通して、「課税所得の90%以上を投資家に分配する」ことで、一部税免除が受けられる仕組みになっています。このため、一般株式に比べ、分配金利回りの高さがセールスポイントになりやすい金融商品です。

私は日本の状況については、詳しくないので、ここでは、米国のREITについて述べることにします。

セクター別で考えるリート

不動産といえば、通常の方に最も親しみやすいのは、居宅用不動産、つまり、レジデンシャル系です。

リートの場合、セクター別に、「オフィス物件系」「ホテル物件系」「商業施設系」「居宅系」など、不動産のセクターごとに組成されることが多く、選ぶ場合は、セクターごとの動きを理解する必要があります。

もう一点、リートの中のポートフォリオのチェック(どのエリアにどんな物件を持っていて、どういう運用ができているのか)までしようとすると、デューディリジェンス(確認作業、内容理解のための精査)は、結局、大変な手間になります。

通常、上場商品に投資をする場合、一般投資家として、そこまでしない、したくない場合のほうが多いのではないでしょうか。

高配当の裏に潜む問題点

そんなリートですが、なにせ毎年、課税所得の9割を分配することが義務付けられています。その結果、どういうことになるかというと、以下の問題点が生じえます。

  1. 内部留保がほとんど残らない利益の大部分を分配してしまうため、物件の修繕積立や新規取得のための資金が内部にほとんど残りません。結果として、
    • 成長のための投資資金は借入や増資に頼らざるを得ない
    • 市場環境次第でレバレッジが高まりやすい
    • 1口当たりの価格自体は、伸びにくい
  2. 成長が外部資金依存になる通常の不動産オーナーであれば、家賃収入の一部を貯めて次の物件を買ったり、大規模修繕を計画的に行えます。しかしREITは再投資原資がほとんど残らないため、新規物件の取得や改修のたびに増資や借入を繰り返す必要があります。結果として既存投資家の持分が希薄化したり、金利上昇局面でコスト増の影響を強く受けます。
  3. 高利回りが安全とは限らない「分配利回りが高い=お得、安心」と考えがちですが、分配金を維持するために無理に借り入れを増やすREITも存在します。金利が上昇している局面では、支払利息が増えることで、長期的には、分配金が減額されるなどの運用リスクがあります。次の節で、高利回りゆえのトラップについても見ていきましょう。

具体的な問題例

堅調と思われていたオフィス系リートが、コロナ旋風に対面し、収益を失い、その後、オフィス需要が回復しないまま、配当停止になった例が、直近、紙面を賑わしました。

Paramount Group (PGRE) という老舗です。オフィス需要自体は、戻ってくるのは確実視されており、ブラックストーン等数多くの大手の不動産投資会社が、この会社のポートフォリオを狙い、買収に動いているそうです。

NYC Real-Estate Firm Nears Deal to Buy Troubled Office Landlord Paramount

つまり、市場は回復してきているのです。この会社も、リートですらなければ、つまり、内部留保を積み上げていたとしたら、ポスト・コロナ苦境を乗り切れたのかもしれないわけです。

むしろ、資金が潤沢であれば、この時期に「買い増し」をすることすら、できたかもしれないわけです。

現状、この買収劇が完了した暁には、PGREへの投資家にとっては、投資は、強制的な現金精算で終わりとなることでしょう。株価はコロナ以前から下がる一方でした。これで、強制終了されたら、期中多少配当が高かったとしても、結局元本自体の回収も難しい形で終わることになります。

リートを選ぶ場合は、居宅系や総合系がベター。

上のケースは、オフィス、それもサンフランスコやニューヨークに特化しているという偏り案件。コロナ前は、優良セクター、優良市場と判断されていましたので、投資というのはやはり難しいものです。

今からリートを選ぶなら、すべてのセクターをターゲットしたタイプ(米国経済の総合的な成長率に賭ける)や、不況に強い居宅系(不況でも家賃は必ず払うので、安心して景気回復を待つことができる)がおすすめです。

NAREITで、いろいろなリートの歴史的なリターンがまとめられていますので、細かいデータを見たい方は、これを確認されれば、どうでしょうか。

Complete History of Annual Returns by Investment Sector and Property Sector

いずれにせよ、高配当のため、IT株式を上回るような成長を望むことはできません。また、法人税の優遇措置があるとは言いましたが、年次配当自体は、免税ではないので、実際のリターンは、投資家自身の適用税率の対象になります。

しかし、現在、米国不動産が高くなってきたため、このセクターに投資をしたい場合は、大いに意味があるでしょう。

私の結論

アクティブなベテラン不動産投資家にとっては、リートは、自分自身が運用するよりも、不確定要素が大きく、かたや成長ポテンシャルが足りないと感じられることになります。高所得者、資産家にとっては、納税しなければいけないような配当は、ないほうが楽というのが本音でもあります。

そのため、私自身は、米国不動産のリートには投資していません。

しかし、不動産の日々の手間が煩わしい方、まだ資産形成途上の方、あるいは年金生活者にとっては、投資ポートフォリの分散化の一環として、大きな意味があると思います。

その際には、この2つの問題、不確定要素(ポートフォリオ内の運用の問題)や成長ポテンシャル懸念を解決するには、できるだけ大きめの全セクターを含むようなポートフォリオか、不況時でも家賃が減りにくいレジデンシャルリートを運用する商品がいいと感じます。

実は、このようなリートの制約(配当が高すぎて成長できないという足かせ)を取り去ったのが、私が運用しているタイプの投資、つまり、不動産系のプライベートエクイティ(PE)ファンドです。

私達のファンドは、2024年11月にスタートしたため、複数年次の実績を見せることができませんが、基本、物件取得時に、初年度キャッシュフローを6,7%目標とし、また、フィックスアップによるバリューアップは、30%を目標にしており、現在のところ、これらのターゲットを達成しています。

これが目標とできるのは、参加者が皆さん、「成長志向」で、長期投資を腰を据えて行う気持ちで一致しているから。リートであれは、分配しなければいけない家賃を、再投資に振り向けることが運用方針です。

マクロ環境に依存する局面は当然あるものの、リート商品より大きなリターンを追求するわけですから、10年以内に、投資元本を倍にバリューアップするのが目標となります。

しかし、PEは、適格投資家(流動投資資産100万ドル以上または年収2,30万ドル)でなければ、投資できません。その意味でも、一般投資家にとっては、米国リートは、「その性質を理解している限りでは、適当な商品でありうる」「現物投資よりリスクが少ない場合がある」と思われます。

どの場合でも、その商品を適切に理解するのが鍵です。少額から始められるリート投資においても、中身を吟味することをお忘れなく。

 

リートが向いていない方や、必要ない方の例

ベテランの不動産投資家、すでに資産家であって、よりよい商品にアクセスすることができる方。このような方は、リートは、不要かもしれません。

全く逆の例であってリートが向いていない方の例としては、全くリートのことがわからず、あまり調べ物もしたくない方。リスク耐性が低く、一時的に資産額面が下がることが恐怖な方。

リートが向いている方

インデックスファンドには、一部、いくつかのリートが入っているので、多くの方はすでにリート投資をしている可能性が高いですね。私自身もインデックスファンドを持っています。

米国不動産を学びたいが、何十万ドルもの戸建て投資を簡単に始めることはできない方は、少額から投資できるリートで不動産を学ぶのが安全かもしれません。

リートについての注意点

意味があるレベルの配当があるリートは、複雑なものであったり、ニッチなものであったりすることがあるので、今すぐ、年率10%といった配当があるリートを追求するのは、危険な場合もありえます。申告・納税も必要であることをお忘れなく。