AIで効率化する投資・売却判断:米国不動産ファンド実務から

アメリカ不動産投資歴20年、居宅用不動産のファンドマネージャーの中山道子です。

今日は、ファンドマネージャーの仕事で、普通の不動産投資家ならあまりやらないだろうことをご紹介します。それが、投資判断については、すべて、アンダーライティング・ガイドラインを策定するという作業が必要になるという話。

今月は、

これまでに取得した戸建て物件を早々に転売する際の基準を策定した

というお話です。

そもそも、アンダーライティングは、購入や融資などについて基準を作り、その基準に基づいて、判断を下すプロセス。

例えば、日本語では、銀行が融資を出す時、「与信審査」といった言葉を使うかと思いますが、その際に審査基準が必要です。ファンドで投資判断を下す場合、基本、この審査基準を作り、マネージングパートナー間の合意を作成し、その合意に基づいてチームが動くことになります。

一人で投資判断を下す場合、基準がある場合でも、それをわざわざ「ガイドライン策定」とは呼ばないかなと思います。

ファンドを共同経営する際には、複数のパートナーが、一緒に動かなければいけないので、この作業プロセスは、ファンド経営に初めて携わる私にとっては、初めての経験です。

一人のパートナーが、提案を行い、それを会議で議論し、それに基づいて、投資方針の具体的ガイドラインを策定するわけですから、合意形成の部分、それから、それを文章化する部分と、それぞれが、たいへん手間取る事になりかねず、去年の11月にファンドを発足させてからこっち、慣れるまで、私たちも、苦労するところがありました。

しかし、私たちはスタートアップですから、大企業と異なり、誰かの顔を立てたり、合意形成に根回ししたり、文言策定に横槍を入れ合ったりしていては、船が沈没してしまいます。会議で議論したら、必ずすぐ成果を出す。このプロセス自体が迅速に行えることが必須なわけです。

2025年を終える前に、私たちは、この集団的な決断形成にあたって、しっかりとした効率的なルーチンができたと感じるに至りましたので今日はそのお話というわけです。

今回の議題、「取得物件売却のガイドライン」作りは、今年、物件のバンドル買いを2回、行ったことが、ことの発端です。合計56軒戸建てで、取得担当パートナーの凄腕のお陰で、どちらも、お買い得なお買い物ができました。

今回、そのパートナーから、

数戸の物件を転売してみたい。こういう条件ならどうだろうか、、、また、今後もこういうことを定期的にやっていきたい。

というプロポーザルがありました。

3人の共同経営者で、週の間に何回か個別の打ち合わせを行い、週一回のパートナー会議で、正式に議題として議論をすることになりました。ただ、取得担当パートナーは、物件の見回りや管理采配に忙しく、ゆっくり座ってプロポーザルを丁寧に書いている時間の余裕はありません。

また、せっかくの売却先があるというのに、何回も議論を蒸し返していては、話自体が流れますので、この際に、すべて論点を洗い出し、今回の売却の可否自体に結論を出すと同時に、今後の売却時の指針を素早くまとめる必要があるわけです。

私たちのファンドは、長期所有が前提の戸建て所有のファンドですので、せっかく、賃借人が入居中の格安取得物件を売却するとなると、当然、その目的を精査する必要が生じます。

まずは、単純売却益が出るのかどうかだけではなく、

■ 所有期間中の各種費用はどれくらいかかったのか
■ 新しく似たような、あるいは、より良い物件を購入する機会はあるのか
■ 逸失利益についてはどう考えるか
■ 究極的に、ファンドの参加者にとって、利益に資するものなのか

といった幾多もの論点をクリアする必要があります。

数字的な実証の部分は、主として財務担当のパートナーが担当し、私は、通常「その他」もろもろ係です。

「その他もろもろ」の具体的内容とはどのようなものか。考えてみると、すごい量の作業が必要なのですが、実際には、AI やテクノロジーのお陰で、大変楽になっています。

まずは、パートナー会議のための準備。

私は、正直言って、この、パートナー会議の議題と資料づくりで、1週間の半分の時間を費やしているといって過言ではありません。その週の間で生じたやり取りを交通整理して、3人で一挙に合意形成するための準備です。

そのうえで、実際の会議は、クラウドアプリで議事録を作成します。

これをすると、ZOOM 会議を録音し、書き起こして整理してくれるのみならず、アプリ上、AIチャットボットで、「あの件はどういうふうに決めたっけ」といったような個別の質問をすると、該当箇所を抜き書きして教えてくれるので、ここの論点整理にあたり、1時間分の議事録に目を通す必要すらありません。

今回は、会議で議論が出つくした段階で、その議論に基づき、アンダーライティング基準を策定し、次の会議までに、あとの二人に「これまでのプロセスで出た議論をすべて前提に、方針策定ガイドラインを作ったから、目を通して問題があれば指摘してください」と資料を回し、合意を取り付け、ガイドライン策定完了というわけです。

ここでの事前の資料作りや準備で足りないところがあると、その場の議論の質が落ちますし、議論が十分できたと思ったら、それをすべて計算に入れて一気にガイドラインを作らないと、紛れてしまい、有効な合意形成、方針策定に至ることができません。

今回、戸建ての転売時のガイドラインとしては、下の概略が決まりました。実際のガイドラインはここではお見せしませんが、下が、大体の指針です。

======不動産ファンドの取得物件を売却する時の指針

**資金の流動性の確保**

バルク購入の場合、資金繰りの関係で、その後の単発購入計画が滞ることがあるが、市場で買付を定期的に続行することで、プレイヤーとして、優位なポジションを確立し続けるため。

**一般流通価格の確定**

バルク購入で割安購入ができているという想定を、市場にて実地で再確認することで、資産性評価の客観資料として、一助となる。

**ポートフォリオの整理**

バンドル購入の場合、一部、それほど気に入らない物件も、セットで購入する必要がある。固定資産税が割高すぎたり、相当な修理が早々に必要になる可能性がある物件、あるいは、テナントが、大変な手間がかかるタイプの賃借人であったなど。「長期管理が容易なポートフォリオへの最適化」という観点から、随時の切り捨てに意味がある。

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以上のいずれかの基準に基づき必要とあらば、テクニカルには、損切りであっても、する必要がある場合はそうしますが、現在のところ、基本は、売却により、意味のあるリターンを確保できる可能性が高いと想定しています。

また、ファンドでは、修理代等コストがたくさんかかっているため、一部ポートフォリオの転売コストは、税金的にはほとんど考慮に入れる必要がないという前提です。

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ちょっと突っ込んだ話になりましたが、個人レベルの投資家では、あまり必要がない業務。また、これまで私は投資コンサルタントを名乗ってきましたが、このようなチームワークの効率化業務には携わったことがありませんでした。

私たちの起業を後押ししてくれる AI や、議事録作成代行アプリなどがなければ、今日、この精度では、行動できていなかったと思います。

昔の会社では、こういう業務のために、秘書やアシスタントを雇ったり、テープ起こしする人を頼んだりしていたのかと思います。

もちろん、現在も、データ入力してくれる方や、ポートフォリオ判断を下すためのカスタムクラウドソリューションの構築を手伝ってくれる方などに支えられているのですが、それでも、ZOOM や AIエージェントが登場していなかった数年前には、このスピード感は実現できなかったでしょう。

いずれにせよ、少人数で効率的な経営を担うための決断メカニズム作り、リズム作りのプロセスが、ファンド1,2年目の経営課題でもあったところ、2025年も残り僅かとなったところで、このように、それなりの成果が残せていることにホッとしています。

 

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