アメリカで居宅不動産のファンドマネージャーをやっている中山道子です。
日本では、昔からの伝統とも言える二世帯住宅。核家族ではなく、成人した子供世代と高齢化する親世代が同居する家族形態です。それに対し、一昔前のアングロサクソン系文化においては、「成人、独立した子供は、親世帯から分離する」というライフスタイルが一般的であったため、そのような住宅は、あまり見られませんでした。
今日のブログは、それが、昨今、アングロ系の文化においても、多世代居宅(multigenerational homes、複数の世代が同居するタイプの家)が人気が出ているという話です。
私自身が扱っているデトロイトの戸建て居宅は、20世紀の前半に建設されたものが多く、当時の「台頭する中産階級向け」物件は、通常、元々は、2ベッドルームのものでした。
イメージとして、基本、居住スペースは、平屋。
地下室は、土台でもあり、また、給水器やガス式の暖房機が置かれるためのスペースでした。下の写真のようなイメージです。ちなみに、下の写真は、私たちの実際の投資物件の地下室。物件概要自体は、こちらからご覧いただけます。

また、屋根裏は、もともと屋根裏(attic)は断熱材(insulation)が入っていて、居住空間ではなく温度調整のために使われていました。下は無料素材集からお借りしましたが、修理前は、こういうイメージだったわけです。

私たちは、1920年代から60年代までに建ったこうした物件を修理し、屋根裏を3つ目のベッドルームにリモデリングして、3ベッドルームに仕立て直し、今のニーズにマッチさせているわけです。
こうした居宅は、明らかに、核家族、つまり、夫婦二人と子供を軸にした一世帯向けの居宅。20世紀前半の住宅は、こういうライフスタイルを満たす居宅が広く求められたわけですね。
それに対し、アングロ系でないエスニックグループ、例えばアフリカ系アメリカ人、ラティノ系アメリカ人、アジア系アメリカ人は、親世代との同居にそれほどの抵抗がなく、非白人層は、昔から、こうした2世代、3世代同居をするライフスタイルをある程度維持していると言われていました。
それが、ここに来て、21世紀型の多世帯同居は、ここでも、コロナが一つのきっかけであると言われています。
<21世紀型の多世帯同居の理由>
■ 子世代の独立が遅れている。
学生ローン、就職難、非正規雇用などが影響し、20代アメリカ人が、大学や就職をきっかけとして親世帯から独立するというアメリカン・ライフが、難しくなってきています。それに対し、親世代は景気の波に乗って、割合リッチ。子供側の事情の変化、つまり、大学卒業後、失業後、離婚後、転職後、などの色々なきっかけに基づき、親の居宅での同居をするケースが一般化しています。
More Young Adults Are Living With Their Parents Than Previous Generation Did
■ 手頃な居宅が足りていない。
関連しますが、現在の不動産、家賃はどんどん高くなってきており、米国では、1ベッドルームのアパートの賃料の平均は、なんと、1,500ドル。私自身、大学卒業後の最初の手取りは、確か14万円と笑ってしまうような額でした(遠い目)。現在、米国の新卒の給料は、通常6万ドル以上だそうですが、これは、大卒者がきちんと就職ができた場合。エリアや状況によっては、「遠方の就職を選ぶための引っ越し代すら捻出できない」ことが多いと言われている世代です。
■ コロナで家族が集まるように。
現在の同居組の多くがコロナをきっかけに同居を決断し、その決断を後悔していないとのこと。当時は同居しないとお互い隔離となり、会うこともままなりませんでした。もちろん、子供が親の世話になるスタイルや、育児を手伝ってもらうケースのみならず、高齢化社会に伴い、子供が親の介護をする、経済的に世話を見るケースも同じくらいあります。
Family Matters: Multigenerational Living Is on the Rise and Here to Stay
理由はそれぞれですが、経済的な理由、家族の大切さを振り返るようになったアメリカ人は、この20年間で、多世帯同居の総数が4倍になり、4世帯に1世帯は、多世帯同居になったという状況なのだといいます。
〈不動産業界の認識変化〉
これまでにも、多世帯同居を前提とした居宅というのはありました。もちろん、普通にベッドルームやバスルームの数が沢山あれば、ある程度は対応が可能なわけですが、その他にも、少し独立形式のユニットのような部屋や離れを作って、
Inlaw Suite(配偶者の親向けの居宅空間)
と呼ぶことはよくありました。
屋根裏改造、地下室改造、車庫を改造したりして、新しく寝室やキチネット付きのワンルームを作ったりするわけで、こうした物件をご覧になった方もあるかもしれません。
昨今の多世帯ブームは、これにとどまらず、ある方が言っていましたが、最近のアッパー向けの新築居宅には、割合と、多世帯同居を意識した間取りが増えているということです。
例えば、パルト・グループでは、以下のように専用のページを設け、新築多世帯住宅を扱っています。
ちなみに、日本語では、パルトと表記されるんですね。日経新聞でカタカナ表記を調べてびっくりしました。英語の発音は、”パ(ポとパの中間くらい)ルティー”なんですが。。。
多世帯住宅の特徴は、日本人にも身近な以下のもの。
■ 玄関二箇所
■ ユニバーサル・デザイン
■ キッチン2つ
ただ、居宅のサイズは、さすがのザッツ・アメリカで、1階2階合わせ、4,000SQFT近く。寝室の数は、6寝室の居宅が提案されています。
いわゆる Starter Home(最初に購入する物件)では、こういう贅沢な間取りは不可能ですが、アッパー層にアピールする大きめ居宅の新しいモデルが提案され始めていることは間違いありません。
実需組にとっては、複数世帯が同居をすることで、居宅コストを減らす可能性があるわけですが、効率優先の投資家にとっては、なかなかエントリーしにくいアングルです。
ただ、米国の家族像が多様化していること、それに伴い、非典型的なライフスタイルを選ぶ層が増加しているということを踏まえておくことに無駄はありません。
ちなみに、この multigenerational home は、duplex とは全く違います。
デュープレックスにおいても、親子で同じ一棟に住むことは可能ですが、デュープレックスは、通常、長屋形式、つまり、2つの全く異なる世帯がたまたま居住できる、そういう多世帯住宅( multifamily home )の一種です。
下が、こうしたデュープレックスの例です。

デュープレックスを購入し、2世帯の賃借人を入れると、表面上、利回りは上がります。しかし、実際には、余裕のある賃借人は、戸建てを好むので、賃貸が安定しないなどの特徴もあります。
こう考えると、場所と状況によっては、今後は、デュープレックスの壁を一部壊して中が行き来できるようにして、multifamily から multigenerational へとリフォームするなどの手も、あるかもしれませんね。
今後、2040年代には、今の非白人(マイノリティ)の総数が、非ラティノ系白人の総数を上回ると言われています。多世帯家族のあり方が、一般的になっていく傾向は、今後も定着、継続するかもしれません。
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