物価上昇と片付けるな!米国の賃貸グレードの物件はどんどん高級化している

デトロイトの戸建て不動産をポートフォリオとするプライベート・エクイティ・ファンドを共同経営している中山道子です。

私は、過去10年以上にわたり、デトロイトの不動産市場を見続けてきました。

この10年間で、賃貸物件の家賃は倍になりました。かつて600ドル、650だった家賃が、現在では、フルリフォーム後、1,200ドル、1,250ドルといった水準で賃貸できるのです。

現在、日本でアメリカの状況が報道される時には、「物価高」や「高所得」といった背景がこのような賃料上昇をもたらしているといった表面的な理解がされがちです。

しかし実際のところ、現場の人間としては昔の賃貸物件の仕上がりと今の賃貸物件のそれを比べると、品質が全く異なっているという事実を第一に指摘するべきだと思っています。

キッチンに見る、賃貸物件の進化

その象徴ともいえるのが、キッチンの変化です。下は、BEFORE仕様のキッチン。上の物件は、まさに、2013年にとられた写真である旨のスタンプがあります。現在購入を検討している物件の昔の写真をZILLOWから借用してみました。


古めかしいキャビネット、焦げ茶木目調が多かった
ラミネート製カウンタートップ
ラミネートのフローリング

私も現地で、お恥ずかしながら(笑)このランクの物件に住んでみた経験もありますが、この水準だと、まともな調理は、ほぼ無理です。

賃借人様のお宅にお邪魔すると、シリアルやピザの箱、炭酸飲料水という三点セットがキッチンにおいてあるイメージしか無いのですが、実際、このランクの物件に居住していれば、ダラーストア等で購入するタイプの長期保存が効く食材がメインにならざるを得ません。

これに対し、現在の私達のAfter(現在の賃貸キッチン)の実例が下です。


今はオフホワイトの明るいキャビネットが主流
天然石カウンタートップ
シンクや水栓もアップグレード、少し大きめに
フローリングも木目調(ただし明るい)でいわゆる少し高級な使いやすいタイプに

これなら、ある程度の防水対策ができているわけです。

ちなみに、参考までに、実需仕様の物件の仕上がりは、更にこういったアップグレードとなります。グリルを伴った高級オーブンが装備され、床はタイルになりました。ここまでくれば、どんな調理でも、できるようになります。

ここではキッチンを具体的な例として取り上げましたが、バスルームやフローリングなども同様のアップグレードが当然となっています。

同じ通りにあって、建物のランク自体としては、外見は、下手をすると大差ないように見える場合でも、実際には、内装ストックの差が、このような装備の差に基づき、アピールする層が変わり、賃料、売買価格に直接反映しているということが、わかっていただけると思います。

加熱する現場の競争

確かに、コロナ後、人手不足、インフレの結果、修理代は高騰しています。しかし、実態は、それだけではありません。《昔のレベルの修理、最低限の修理しかしていない賃貸物件》は、デトロイト市のような、いわば、所得水準が低いインナー・シティ・テナント向けのストックとしてすら、淘汰されつつあるのです。

現在でも比較的安価な賃料の物件も存在しており、実際、このレベルの物件に居住を続けている賃借人様も多いのですが、他方で、最新の賃貸経営の主流は確実に高品質なストックを提供するビジネスモデルへと移行しているわけですね。

2025年の今日、普通に不動産を購入して、賃料でキャッシュフローをさせるという長期資産形成戦略には、これまで以上に難しさが伴います。

■ 現金で購入しても、利回りは、4%出れば高利回り。通常は、そもそもキャッシュ・フローしません
■ 融資を受けて購入をする場合は、マイナスキャッシュフローをしながら、遠い先の値上がり期待をする
■ しかし、インフレで、修理代、固定資産税、保険、管理費とあらゆる経費が高くなっている
■ 大暴落からの回復後、コロナ後の資産バブルを経て、価格低迷や修正の可能性が高まった

物件価格や賃料のアップ、修理代高騰。

実際には、このように、丁寧に見ていくと、単に、10年間の間、あるいはコロナを挟んで、賃料だろうと、売買価格だろうと、同じものが、単純に、2倍になったわけではありません。もちろん、コロナ期に、貨幣の流通量を増やしたため、インフレが来た、といったようなエコノミストの分析が間違っているわけではないのでしょうが、ただ、現場に立つものとして言わせてもらえれば、市場における品質へのこだわりは、このように、大変強くなっており、求められる大家になるためのハードルは、昔より高くもなっているのです。

どのレベルのリフォームをいくらで施工するか。ここで市場の需要を見誤ると、その後、苦戦が続くことになり得ます。

私達のファンドは、割安で、要修理物件を購入し、結構な修理代を出し、高レベルの賃貸に仕上げ、1,000ドル以上の賃料を取るのが基本のビジネスモデル。

この流れを、「不動産投資のベテランなら中山、引き続き、個人で、そういうのをやって見せろ」と言われたら、正直、きついです。

ファンドだから、年間100件単位、1,000戸でも買う前提だから、効率的なチーム編成ができるのであって、一人で、「今年、数戸買いますからよろしく」などと申し入れてみても、同じことは、同じレベルでは、実現できません。ファンドとして効率経営を始め、今更ながらに、そのことを実感しています。

現在でも、私の周囲では、遠隔で対米不動産投資をされている方々がおいでですが、日本に住んだり、普段は本業に打ち込みながら、サイドでこういうことをされる方には、頭が下がります。趣味というか、ライフスタイル的に、やられている方もいるんじゃないかなと思います。

しかし、通常は、本業があり、拠点が別で、といった状況で、時間活用、効率的な資金運用などを考えれば、加熱する現場の競争に個人大家がついていこうとするのは、昔より難しくなっていると感じます。私も遠隔投資を提唱して長いですが、手前味噌ながら、現在の対米遠隔投資のステージは、専門家集団に任せる段階に来たと思っています。

残念ながら、なかなか、そこまでいかないよ、という規模の方の場合、リアル不動産への新規参入は、勧めにくくなったというのが、零細草分けである私の体感。己の来し方を振り返れば、当時、遠隔ブロガーでしかなかった私自身が、この20年で、一零細戸建て投資家から、大きなポートフォリオをマネージメントするファンド・マネージャーに至った経過には、必然性があるのです。

最後に、現在は、いわゆるインデックス・ファンド投資など、海外投資は、今まで以上に容易になっています。なので、海外投資自体は、円安基調の今、ますます、辞めるべきではありません。環境が変われば、やり方も変える必要があります。今の時代に合った選択を、見つけていきましょう。