キャリアの“正解”がなくなった時代の居場所づくりとは/米国不動産編

居宅不動産プライベート・エクイティ・ファンドマネージャーの中山道子です。

私が若かった頃の日本では、キャリアというのは、「一つの会社に入って、ずっと勤め上げる」というイメージでした。私の父の世代です。しかし、実際には、私は、結局アメリカ流の「リスキリング」的なキャリア形成の道をたどることになりました。今日は、米国式のキャリアの積み上げ方について、私が経験したことを、お話します。

《ゼロから始めた私の不動産キャリア》

不動産の場合、職歴や学歴は関係ありません。ここ、ボトムから始める場合は、賃貸管理。まずは、時給制ですね。

少し慣れてきて、免許を取れば、そこで、少しステップ・アップできます。

ここから本格的に収入を上げたい場合は、賃貸ではなく、売買に行きましょう。

更に余裕があれば、居宅不動産ではなく、商業案件に進む事ができます。

このプロセスでは、不動産のことのみならず、いわゆるファイナンスの初級レベル的な勉強をする必要がありますが、正直、微積分や会計学が理解できる必要はなく、普通の不動産投資家が求める範囲のエクセル・シート・レベルで十分。

もう一つ、並行して重要なのが、自分のお客さん、お得意さんを作ることと、「これ」という得意分野を持つことです。

私自身、このはしごを自分で登ってきた過去があります。学歴も関係なく(確かに無駄に高学歴ですが)、コネもありませんでした。

このプロセスを経て、現在、私より実績がある高レベルのビジネスパートナーたちと、一緒にプライベート・エクイティ・ファンドを運用するところまで行くことができました。

不動産については、ゼロからのスキルアップ、ボトムアップのプロセスは、このように、大体わかっているつもりでしたが、最近、他の業種も、やはり大変なんだなあということがわかる機会がありました。

《CPAだって“資格だけ”では通用しない》

参加投資家様にこの前ご報告したのですが、ファンドマネージャーとして、ご報告をリアルタイムでクラウドで行う必要があるところ、人をフルタイムで雇うより、専門家集団にその業務を外注することと決めました。

実は、最初は、クラウドサービスの入力の仕方がわからないということで、狭い意味での「テックサポート」さんを探していたのですが、《不動産ファンド経営用のクラウドサービス》というニッチなレベルでのITサポート探しは、最終的に、「会計士による、ITサポートを含めた総合コンサルティング・サービス」に行き着くことになったのです。

何をどういう目的で入力したいのかが明確にわかっていなければ、望む結果を実現することが困難であるところ、そこまで理解してくれる方は、不動産ファンド経営をこちら以上に理解している集団である必要があるということがわかったからです。

例えば、入力サポートをしてくれるだけでなく、コンプラ関係の業務もフォローしてくれる、報告書作成はもちろん任せられる、など、大心強い職能集団。実際、彼らは、

■ まず、CPAであり
■ 不動産ファンド経営に特化した知識があり
■ 当方が利用しているクラウドファンドマネージャーのテックサポートをする事ができる

というわけです。

この方々のキャリアパスを察するに、

>大学で、多分経営管理学かファイナンスを学び
>会計士試験に合格し
>不動産ファンド経営のためのより高度な業務を学び
>更に、主たるクラウドサービスの提携業者登録を受けるためのトレーニング等を受けた

という感じでしょうか。CPAといえば、士業で、学歴不要の不動産業界とは全く異なりますが、そういう業界でも、資格取得後の努力は欠かせないようです。

実際、ファンド経営レベルでの不動産投資は、普通の税理士さん、単にCPAを持っている何でも屋さんでは、足りませんし、昨今、オンラインのクラウドサービス上、投資家向けに、業務報告をしていないファンドなんてないでしょう。

ここまで専門化すると、うまく行けば、高額なコンサル契約が、毎年、更新できるということになり、他のCPAとの価格競争に疲弊することも少なくなるのではないでしょうか。

《Webマーケにも求められる「特化」の力》

実は、私のビジネスパートナーが、長らく利用しているウエブマーケッティング会社でも、高度の専門分野への特化をしています。

■ ハブスポットの提携業者
■ ウエブサイト構築、CRMフォローにSEO対策
■ 上2つまではわかるが、やはり、特に、不動産専門と銘打っている

というもので、最初、経営者と話をしていた時、「ファンド集客も得意です」と言われ、目をむきました。

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中山
「不動産ファンドへの集客ができるっていわれても、あの、適格投資家(金融資産100万ドル以上)でないと、来てもらっても関係ないんだけど??」

経営者
「もちろん。そういうのこそ得意ですから安心してください」
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SEO対策のときに、不動産ファンドを探す資産家層を拾うためのキーワードや仕組みづくりのノウハウを持っているのでしょう。考えてみれば、それくらい絞りをかければ、サーチの精度は上がるわけです。しかし、ここまで特化して、逆にようやくビジネスが安定するとは、、、米国という市場の規模の大きさや、同時に競争の激しさも、感じました。

私達のファンドは、既存の顧客様とご一緒に起業しているため、有料の集客をする予算は作っていませんが、私のビジネスパートナーによると、彼の会社では、多額の費用をこのマーケッティング会社に払っており、新規が自動的に集客できる仕組みを作ることができているので、周囲に勧めているということ。

経営者が不動産で成功して、現在、ITに転じたため、このように、ITサポートにあたっても、勝手知ったる不動産業界に特化したということなのですが、米国では、きっとどこを探しても、こういうふうに、高度に専門化した集団が、見つかるのでしょうね。逆に、それこそが、成功、安定、顧客囲い込みの定石であるのかもしれません。

《米国式キャリアの積み上げ方とは》

私の若いときの日本の常識では、会社員は、ジェネラリスト的に、会社の配置転換に応じ、いろいろな畑を渡り歩いて、幹部になっていくイメージ。または、一つの業界で、自分の専門から一歩も踏み出さない。失敗は許されない印象もあります。

そんな日本では、私のような転職失敗組は、これまでは、落伍者のレッテルを貼られ、回復は難しかったと思います。

しかし、米国では、どんな仕事でも、複数のスキルをプラスオンしていき、そのシナジーを作り出すことで、自分の居場所を作るキャリアパスというものが、私達多くの中間層にとって、「可能」であるのみならず、「普通」なのです。当然、トライアル・アンド・エラーの連続でもあります。

20代の私は、人の目を気にし、挫折を嫌がるタイプの人間でしたが、その後、私は、ゼロからのこのプロセスで鍛えられて、良かったと思っています。

最近の日本の状況を見ていると、昔ながらのキャリア・モデルは、誰にでもマッチするものではなくなっているという認識が共有されるようになっています。こういう仕事の積み上げ方も、必要になって来ているのではないでしょうか。私自身の試行錯誤の軌跡に、共感していただける方もいるのではないかと思い、今日は、ちょっと、普段と趣旨を変えた記事となりました。