鑑定書が信用できないとき お金持ちの不動産ポートフォリオ

不動産専門プライベート・エクイティ・ファンド・マネージャーの中山道子です。

最近やった融資案件の担保審査で、がっかりというかびっくりなことがあったので、ご紹介します。商業不動産を担保にお金を借りる人は、世間的に言って、お金持ち、大金持ちと評価される人も多数。当然、お金を貸す側としては、お金持ちに貸したいわけです。

どうしてお金持ちが、高金利で、お金を借りる必要があるのか。その実態は、大丈夫なんだろうか?と思うこともしばしば。。。

この前、1000万ドルの担保を差し出すから500万ドル貸してくれという話がありました。その方がご資金が必要な理由は、「不動産の固定資産税を払わなかったために、一部の物件が役所に差し押さえられてしまい、それを取り戻したい」ということでした。

1000万ドルのポートフォリオとはどんなものかと思ってみていましたが、どれも、少し物足りない。。。例えば、今空室が問題になっているオフィス棟。レントロールは、、、なし。

商業不動産は、居宅不動産と違って、収益性が価値を決めますが、「満室になるとすごい物件です」といった評価方法が流通していることもあり、気をつけなければいけません。

また、鑑定書の質も、居宅物件鑑定と異なり、鑑定人の質に大きく左右されます。この世界に入ったときは、鑑定書があれば、信用できるのかと思っていましたが、現在は、鑑定書の読み方が変わりました。第一に、「この鑑定書はどの程度のレベルの鑑定書か」ということを意識しながら読むようになったのです。内容はその次で、鑑定書の質が悪ければ、評価額が高くても、大して意味はないわけです。

問題の鑑定書は、特に優れているとも感じませんでしたが、特に悪いとも感じませんでした。ただ、「実際のレントロールが確認できなかったので、賃料についてはヒアリングで」とあったので、精度自体は、やはり低いわけです。

「実際のレントロールと賃貸借契約書がなければ回答できません」

とつっかえしました。

そうしたところ、レントロールは来なかったのですが、賃貸借契約書が来ました。そこで一応確認したところ、驚愕の事実がわかりました。

鑑定書では、147万ドルの価値があると評価された物件、なんと、テナントには、その3分の1で、「買付予約権」(Option to Purchase)が明記されていたのです。

こちらとしては、物件価値が147万と思いこんで90万ドル、100万ドル貸してしまったとします。しかし、融資中に、テナントが45万ドルで、買付予約権を行使したら、大事になります。

このお金持ちも、こんなにテナントに有利な賃貸借契約書を締結するとは、どういうことなのか、、、

デトロイトは、空室にあえぐ商業物件がひしめいていますから、入居を決めていただく段階の空室の段階では、確かに、その程度が現実的だったということなのかもしれません。そうすると、このテナントさんは、相当の頭脳派ということになります。

この方の資産リストは軒並みこの調子で、1000万ドルのポートフォリオと言われても、、、この物件に対しては、45万ドルの半分の20万ドルなら貸すと回答しました。

鑑定書というのは、すべての問題を解決してくれるわけではなく、その他にたくさんの要素があることに留意しなければいけません。賃貸借契約の額面家賃の確認やレントロールの確認は、鑑定人の仕事のうちですが、物件オーナーが開示しない書類があれば、伝聞情報として処理しなければいけませんし、実際、鑑定人が、書類をもらっている場合であっても、契約書の細かい情報の読み込みまで期待することは難しいと覚悟する必要があります。

この状況であれば、テナントが融資申し込みをしてくれれば、硬い案件になります。

つまり、買付予約権を行使し、45万ドルでの購入合意ができたら、私達がその資金を用意する、というシナリオですね。147万ドルの評価がある物件を45万ドルで購入するわけですから。しかし、オーナー側から頂いた資料に基づいてテナントさんに、そのようなコンタクトをするわけにはいきませんでした。