アメリカ不動産投資で資産倍増中ブログの中山道子です。
この記事の概要
和製英語といっていいと思いますが、日本の不動産投資においては、【賃借人が居住中の投資用物件を、譲渡する】ことを、オーナー・チェンジと言うようですね。
日本では、それほどでもないかもしれませんが、米国では、物件を売却する場合、早く、高値で売りたければ、空室にして売ることが基本です。
この記事では、その理由をご説明します。
日本居住の高額所得者にとっては、海外投資物件を加速的に減価償却して、国内所得と合算申告する「税法上の抜け穴(tax loophole、ループホール)」は、2020年の申告でおしまいです。
そのために、2019年、2020年、2021年と、日本在住の米国不動産投資家の方々は、物件売却準備を進めている方が多いかもしれません。
この時、賃貸中である場合、「テナントさん付きで、オーナー・チェンジ案件として、売りたい」という希望があるかもしれません。
米国では、オーナー・チェンジという言い方はしません。Investment property (投資中の物件)とか、renter-occupied property (賃借人さんが居住中の物件)といった言い方になります。
投資家目線、特に初級投資家からすれば、
「投資物件を、テナント付きで売る」
というのは、一番ラクな売り方であり、相手にとっても、空室リスクがないため、投資家間においては、メリットのある買い方なんじゃないかと思いがちですが、米国では、買う方や扱う側からは、通常、大変嫌われる取引になります。
ここでは、その理由を、いくつかご説明します。
====
【アメリカで、「オーナー・チェンジ」案件が嫌われる理由1】
第一の理由は、ズバリ、内見が難しいことです。
テナントさんにとっては、いろいろな内見客が来るのは迷惑そのもの。特にお礼がない限りは、協力する義理は感じられません。部屋をきれいにして待っていろとか、掃除をした後は半日家族一同出ていけとか言われても、喜んで対応してくれるほうが珍しいでしょう。
そのため、所有者一家が居住している物件より、内見の手間がかかるのです。
一番好かれるのは、空室で、ステージング(清掃後、生活感はないが、素敵な家具家電がおいてある)してある物件。
高級物件を売ろうとする人は、それが自宅であったとしても、まず、引っ越しをしてから、プロにステージングを頼み、自分が使っていたのとは別の家具を持ち込んでもらったりして、一番高値を取ろうとします。
それに対し、生活感あふれるテナント居住中の物件がどう見えるかは、押して図るべしということです。「相手が投資家なら、おしゃれなイメージではなく、数字だけ見るはずじゃないか」と思われるかもしれません。
しかし、テナントの安い家具がおいてあったり、洗濯物が山積みになっていたりすると、壁や地下室、屋根裏等の構造や修理点が見えにくいなどの問題点がありますね。それが、やはり懸念材料となるのです。
【アメリカで、「オーナー・チェンジ」案件が嫌われる理由2】
賃借人のことが、信用できない。
商業取引の場合は、レント・ロール(rent roll、直近あるいは累計の賃料支払履歴)開示が必要ですが、一般の戸建て売買で、テナントさんがいる場合、レント・ロール(直近あるいは過去の支払い履歴)開示義務はありません。請求して見せてくれるのは、賃貸借契約書のみです。
何十万ドルもする物件に、たかだか敷金1ヶ月で、赤の他人が居住しているわけですから、買う側にとっては、そのテナントが、サクラとまでは言わないまでも、自分の審査基準に合致しない属性レベルの人なのではないかという危惧を持ってかかるのは当然でしょう。
【アメリカで、「オーナー・チェンジ」案件が嫌われる理由3】
実需組は、買いたがらないため、買ってくれる人の数が減る。
「今、家を買って、そこに自分で住もう」と思っている人は、わざわざ、投資物件を買って賃借人が出ていくのを待ったりはしません。
通常の市場では、市中の買い手の6-7割は、この「実需組」。そうすると、現地で物件を買いたいと思っている人に10人見せても、「オーナー・チェンジ物件が欲しい」と思っている人は、うち、1、2人いるかどうかというレベルの話になります。
こうなると、需要が激減するわけですから、物件が売れる価格は、空室の物件を売る価格の9割程度が目標になります。買付オファーが来るのもより時間がかかる可能性が買いでしょう。
空室でステージングがきちんとできている物件が、2ヶ月で売れるとしたら、投資物件は、4ヶ月待って、売却価格がしかも割安、という覚悟をする必要があるのです。
【アメリカで、「オーナー・チェンジ物件が嫌われる理由4】
上の3つの総括でもありますが、テナント居住中の投資物件というのは、仲介の方に嫌われる物件タイプです。
理由は、内見が難しく、占有権引き渡しにあたって、トラブルが生じないとも限らないから。
すでに空室になっている物件であれば、まさか、売り主が出ていかないといったトラブルは、流石にありませんが、人が住んでいる物件は、占有権が移転するにあたり、名義譲渡と別に、トラブルが生じる可能性が残るので、仲介の方にとっては、売っても価格は安く、手間がかかり、後日トラブルが残る可能性が生じる3重苦を背負うことになります。
アメリカでは、仲介さんとの契約は専任(その人にだけ任せる形式)が普通なので、セールスパーソンの方の権限が強く、日本で物件を売る時のように、いろいろな人に、物件情報をばらまいて、最初に買い手を連れてきてくれた人にだけ、成約時、謝礼を払うというような《ワガママな売り手ライフ》はエンジョイできません。
====
この記事の結論
アメリカでは、テナントさんが居住している物件を売るときは、割安で手放す覚悟が必要です。余裕があれば、賃貸借契約を満了させ、テナントさんにスムーズに出ていっていただいた後に、清掃を行い、空室状態で売却をしましょう。
ただ、それをすると、テナントさんに出ていってもらうのに時間がかかる他、ローンがある場合、空室中のキャリーコストが大きく、しかも、退去後には多少の修理代がかかります。
その分を勘案すれば、2ヶ月遅れて1割安く売れるなら御の字だ、という考え方も可能ですので、「空室で売るか」「オーナー・チェンジで売るか」は、自分の事情や物件のタイプ、市場の状況に基づいて、お世話になっている仲介業者さんのアドバイスを受けながら決めていきましょう。
最後に、2020年 COVID 絡みの補足として、現在、人との接触という問題があるため、空室でない物件の売買は、現場で相当嫌われます。この観点から、テナント付きのオーナー・チェンジ物件の売買が、平時以上に難しくなってしまったケースも多いでしょう。