印象操作に気をつけよう フェイクニュースはこんな形でも

「アメリカ不動産投資で資産倍増中!」ブログの中山道子です。

今日の記事は書くつもりはなかったので、あまり時間を使わないで簡単に。

この記事の概要

情報弱者にならないためには、必ず、原典を当たろう。自分自身でリサーチをする癖をつけよう。

私のブログは、ダラダラ長いし、面白おかしいところはあまりありませんが、「評価していただきたい」と思っている方に評価していただいているので、「ブログを読んでいる」ということでご連絡を頂いた方とは、よくお話が合います。

もっと広く読んでもらうためには、広告を打ったり、それ以前に、文章を扇情的に脚色したり、時事的なコメントでアクセスを稼いだりしなければいけないのだと思いますが、これは、私の性格で、それほど誰とでも話が合わせられるタイプでないのです。

ということで、私と話が合うブログ購読者様向けに、ちょっとした公開日記を。

お題は、2019年4月6日の今日、びっくりしたこと、です。

何がびっくりって、2日前の時事通信の下のニュースです。(リンクは今後、作動しなくなると思うので、下にキャプチャーをさせていただいています。)

記事の本体を読むと、今後2年の間に、12%下落する確率が、5%って、つまり、下落する確率は、それほど高くないということになりそうですが。

それなのに、記事の見出しを見ると、IMF は、世界的な住宅価格の下落を危惧し始めているという印象を与えようとしているようです。そうすると、

> 12%下落する確率は5%

で低いが、更に、

> 30%下落する確率は20%

とか、

> 5%下落する確率なら50%

とか、実際のレポートにはもっと恐ろしい数字が出ているのでしょうか? 世界的な危機や下落が確実に迫っているという警告の一端なんでしょうか。それならそれで、ニュースの見出し、そっちを持ってくるはずですよね。

新聞記事等の見出しが誤解を招きやすいといえば、そんなこと、よくあることといえばそうなんですが、今回の記事は、数字の持って来方が、本当に特に不思議だったので(「5%ってなんだ?どこから来る数字だ?」「世界的に不動産市場本格下落の可能性が出たというんなら、3割とか、5割とか、意味のある数字を出してくるだろうに」と心の中で思いまして)、腹を決めて、IMF の該当レポートというのを読むことにしました。日本語での概要説明が、こちらです。

住宅バブル崩壊のリスクを計る

ちょっと翻訳口調で読みにくく、趣旨がわかりにくいですね。

執筆者たちは、ヨーロッパ系なので、たたき台が何語かまではわかりませんが、一応、英語の発表に戻ると、趣旨がはっきりします。

Assessing the Risk of the Next Housing Bust

the IMF’s new tool can help policy makers gauge the likelihood of a future housing downturn and take early steps to help limit the damage.

今回、国際通貨基金が開発した新しいツールを利用することで、政策決定者は、将来の自国における不動産市場の下落の可能性を予測したり、被害が大きくなりにくいように、早めに対応策を立案することができる

どうしてかわかりませんが、邦訳からは、この大事な段落が、抜け落ちています。

このコンテクストでいうと、「直近、多くの国で、不動産価格が急上昇したという背景があり、今後についての懸念が生じる時期になったので、32カ国を対象に、グローバルな調査をした」というのが背景ですね。

本題としては、不動産市場のリスクは、下の4つの指標の度合いから、最大3年先まで見通すことができる可能性がある。

1) 物件価格の下落
2) 過大評価状態
3) 与信枠が肥大化
4) 金融環境が緊縮

対策としては、融資基準の引き上げが最も効果的で、それに対し、金利政策は、先進国では、短期的には安定化を促す効果があるが、長期的には、価格の水太りを招き、将来の潜在的な問題を大きくする可能性を生むということです。

そんなこと、IMF に教えてもらえなくても、各国の専門家は、自国についてはだいたい分かるのではないかとも思いますが、不動産については、一般的に、主要都市で、景気後退前に、世界的な下落傾向が共通して観察される可能性が近年高まっているという状況もあるため、国際機関がこうした網羅的な研究をすることに意味があるということですね。

実は、現在、先進国より新興国のほうが、下落リスクが高い、ただし、先進国でも、カナダは、リスクをはらんでいる、通常米国のほうがリスクのブレが激しいのだが、現在米国は、下落予兆が見られない、といったコメントがなされています。

実は、このレポートでは、32カ国を1990年からの30年弱の間に観察した結果、累積したデータに基づき、以下の確率論が紹介されていました。

> 先進国群の毎年の物件の値上がり率は、2%程度
> 新興国は、2.6%程度

下落については

> 先進国群は、20年に1度、平均10.5%の下落を経験する、つまり、毎年5%の下落リスクがある
> 新興国の場合は、それが、12%の下落

つまり、共同通信の見出し、「今後、5%の確率で、12%の下落」する可能性がある」って、今は、フツーに平時ってことじゃないですか。そういうリスクは、過去30年弱に渡って、毎年、このリスクで来てるわけですから。今回のレポートの趣旨は、市場動向を悲観的に予測というよりは、どちらかというと、予測のためのデータ・ツールをまとめたよ、各国政府の政策担当者さん、読んでね、ということが、リリースの趣旨!

そして、「その場合に、経済後退の可能性が31%」というのも、「過去の分析からすると、不動産市場が下落するときは、3割の確率で、金融市場も下がる傾向なんだよねー。お互い気をつけようねー。風邪ひきそうになったら、早めに手当しようよ!そうすれば効くからさ♬ 金利政策じゃなくて、融資基準引き締めでヨロシクねっ」っていうだけの話!

ということで、今回、レポートを読んでも、上の記事の見出しには全然繋がる気がしませんでした。

もちろん、前回の大恐慌からの復興が長く続いており、そろそろ、「いつ、景気が悪くなるか、みんなが恐る恐る、注視している」という状態があるからこそ、このレポートが必要だということになったという背景はわかります。

ロンドン、シドニー、香港、ニューヨークと、多くの世界一流都市で、高級不動産の価格調整が続いていることが、前提だということは、間違いないでしょう。

しかし、レポート内容自体には、どこにも、IMF は世界的な不動産価格の同時下落を予測しているなんていうことは書いてありません。レポートに書かれなかった部分を、共同通信が、執筆者に対する生インタビューから聞いてきた、という話ならすごいニュースですが、それなら、扱い方は、全く違っていることでしょう。

むしろ、先進国の場合は、2008年時より平均的にいって、ボラティリティは低まっている、ただし、「カナダの一部の都市(バンクーバー等)なんかは心配。今回、より危険なのは、新興国群のほう」だそうです。

つまり、一流都市に次々に入っている調整は、あくまで、調整である、という前提を大きく崩すような理由があるとは言えないのだと思います。(個別都市のほうが、国レベルでより、ボラティリティが高いということは指摘されている。)

レポートには、カナダ(先進国の例外)や中国(新興国の代表)が名指しで挙げられてはいますが、あくまで懸念例という形。

いずれにせよ、報道記事に戻ると、別段、こういう「極端な色付け」、共同通信だけの問題だとは思いませんが、たまたま、今朝、気がついたニュースとして突っ込んでしまいました。

配信する側は、いろいろな制約条件や、読み手の興味を引くためのテクとかも使わなければいけないとか、すごく苦労しておいでなんだろうとは思います。

この記事については、時代の気分を反映するには、衝撃的に聞こえる不況ネタがクリックされやすいだろうとか、そういう(短絡的な?)編集方針だったのでしょうか。

本来、すごく優秀でないと、新聞記者にはなれないわけで、私も、この記者さんやデスクの方と、直接やり取りする可能性があれば、「なるほど、いろいろ大変なんですね、そういうわけでしたか。いやいや、応援してますので、今後も頑張ってくださいね!」なんていう会話になるんじゃないかと思います。

しかし、ここは、自分の視点で引っ張ってコメントを続けると、一般論として、他人経由の情報は、こういうふうに、思いもよらないバイアスがかかっていることが、ありえます。

今回、ソースにあたり、「5%の確率で12%下がる可能性がある」という大変不思議に思えた数字の根拠(32カ国の市場を分析したところ、過去30年弱の平均でみると、20年に一度、1割下落のペースだった)が見えて、良かったです。

最後に少し営業に引っ張ると、ファイナンシャル・リテラシーを培うには、自分でソースに当たる、自分で考える必要があります。投資の場合は特に、人に何か言われたら、ネットでいちいち裏を取るくらいの気持ちが必要です。

この6月からのアメリカ不動産オンライン投資塾では、そんな部分も、皆さんとご一緒に考えていくことができれば、と思っていますので、投資情報処理能力に不安がある方、ぜひ、ご検討ください。私も、先生というより、「先輩」程度のレベルですが、皆さんとご一緒に、投資家としての見の処し方を学ぶための機会をご用意できるよう、頑張りたいと思っています。

この記事のまとめ

ファイナンシャル・リテラシーは、「人の言うことを真に受けない」「印象操作に惑わされない」といった「自己を持つ姿勢」が出発点。

世の中の情報は、何らかのバイアスがかかっている可能性が高いので、その裏まで読み込むために、「あと一歩」踏み込むことをされてみてください。