JPモルガンチェイスの定位観測が面白い 後編

この記事は「雑談の続き」です。前編はこのリンクからどうぞ。

顧客アドバイザリー業務において、自社利益を優先して、顧客利益をないがしろにする傾向があると指摘されているJPモルガンチェイス。

2021年2月のブルームバーグの記事に戦慄の具体例が掲載されたので、ご紹介したいと思います。

この記事の概要

資産家の祖母の資産を運用させてもらうことになった孫二人、祖母の資産をお土産に、JPモルガンチェイスに、就職。そこでも、許可を得ずに、ハイリスクなヘッジファンドへの投資などを続け、手数料を荒稼ぎ。最後は、祖母の居宅に立ち入り、毎月の明細を破り捨てるなど証拠隠滅にも及んだ。

祖母の宝石の窃盗も疑われており、家族ぐるみで、祖母に、「問題はない」という書類にサインをさせるなど、行動がエスカレートした結果、祖母に法的に追及され、ブローカーライセンスを取り上げられる羽目に。JPモルガンチェイスもFINRA(業界監視機関)の仲裁手続きにおいて、顧客への義務違反や高齢者虐待に共同加担したと認定され、孫たちと連帯で、1900万ドルの返済を命じられた。

93歳の祖母、孫を法的訴追、という見出しで、どの程度の資産なのかと思ったら、けた違いの8000万ドルの運用をめぐる攻防でした。これは、法的な問題になりますよね。

今回、FINRAの仲裁手続きで天下のJPモルガンチェイスに対して多額の損害賠償を勝ち取ったのは、Beverley Schottenstein さん。亡くなった配偶者は、もともと家具店を経営、その後、Big Lots や American Eagle Outfitters など、いくつものチェーンの共同経営に携わっていたため、多額の資産を相続して現在に至ります。

孫たち Evan と Avi Schottenstein がファイナンシャルアドバイザーの資格を取り、資産運用を任せられることになって、悲劇が始まりました。年長の Evan が首謀者扱いされています。

フィンラの仲裁プロセスは非公開なため、本来は、こうした内紛で何が起こったかはあまり世間に広まらないのですが、このご一家は、「今後、他の人が同じような被害にあわないため」あえて、情報をすべて公開する、という立場を取り、ブルームバーグの特集記事となったようです。

当初、孫の Evan氏はシティーグループで働いていました。マンハッタンで住んでいたのは、祖母 Beverly が買ってあげていたマンション。

どうも、この一家は全員が依存体質らしく、Evan らの父 Bobby とその妻は、Beverly の夫、Bobby の父が死んだときに1800万ドルを相続したのにもかかわらず、それをすぐに失ってしまい、Evanが高校生になるころには、ほとんどお金が無くなっていたとのこと。

金融業界では、就職時に、「家族のお金をお土産に持ってくることができます」というアピールで就活するのが普通ならしく、シティー勤務時に祖母のアカウントマネージャーの地位を勝ち取った Evan は、その後、自分のコントロール下に、これだけの資産があることをアピールして、2014年に、JPモルガン(当時)での地位を得たそうで、その際には、年若の弟 Avi にも正社員の地位が与えられました。

それからは、90台の Beverly さんには理解できないような難しい投資案件への多額の投資が沢山行われ、資産額の適切なマネージメントより、コミッションを上げることのほうが優先されました。

しかも、この兄弟、何にそんなにお金が必要なのか、祖母のアカウントマネージャーとして、100万ドル単位の報酬を得るのみならず、祖母のクレジットカードも勝手に使いまくり、カードは利用停止になってしまいます。介護の方への支払いがカード決済できず、大恥をかいた Beverly さんは、とうとう、会社に電話、CEO のジェイミー・ダイモン氏のオフィスにまで伝言をしますが、回答はありません。

この対決が始まると、Evan の父 Bobby、つまり、Beverlyさんの息子さんがBeverlyさんのマンションに怒鳴り込みに入り、「Evan に関し、銀行に書いた問題提起」を翻すよう、90台の母に強要します。この様子は、別の家族が目撃、証言、そのさまを、写真に撮ったりまでしています。

同社の記録によると、Beverlyさんは、アグレッシブな上級投資家カテゴリーに分類されており、例えば、2014年、2015年には、7,200万ドルの投資( autocallable strucutured note, 日本語訳は探しても見当たらず、基本、何らかのベンチマークに連動する借用書で、内容は、多様でありうる)をし、1000万ドルをロスしたという記録などが次々と公開されました。

当然、いずれも、彼女の知るところではなく、Beverlyさん側は、もし、この期間、普通にインデックスファンドや、アップルの株、ビッグロッツの株をずっと保有していれば、2014年から2019年までの間に、3,000万ドルといった利益が、何もせず、座っているだけで、得られていたはずだと主張しました。確かに、この時期の株式市場で、元本8,000万のアグレッシブ運用に対し、累計で、800万ドル、合計10パーセントのリターンしか見られなかったというのは、寂しいところではあります。(けどヘッジファンドでもっとひどい成績のところもあるかと思いますけど)

専門家の証言では、「90歳でアグレッシブな上級投資家」という登録がある場合、普通なら、直接のインタビューをして、投資理解能力の確認が必要であるということです。JPモルガンチェイスでは、そのようなコンプライアンスが守られた形跡がなく、2015年に、一度、Evan の上司が Beverly さんと話をした以降、フォローアップはなかったとのこと。

2014年から2019年までの累計取引総額4億ドル中の6割が、モルガンチェイスがマーケットメーカーとなるIPOの株式購入等、JPMCを直接利益する売買だったとの認定も、Beverly さん弁護団の資料提出にあたって、相当な分析があってのことなのかと思われます。

以上あらゆる事実の提起を受けて、JPモルガンチェイスは、疑わしい状況を知っていたのにもかかわらず、監督責任を適切に果たしていなかったと認定されました。

記事によると、フィンラは、書類偽造などは管轄外で、今回、Beverly 氏の署名が何度も偽造されたという主張があるため、ニューヨーク州検事局が、この問題を刑事立件するかを検討中だそう。

フィンラはある意味、民間の業界団体なので、ここで紛争になっても、大手金融機関に対して一個人、顧客側が勝ちを収めるというのは、大変なことらしく、これだけの資産があって、優秀な弁護士団を自在に使い、あらゆる証拠そろえをする財力があったから、Beverly さんは勝てたということなのでしょう。これが、8,000万ドルではなく、80万ドルの資産流用であれば、このように世間に公開されることはなかったのではないかと思います。

Beverly さんには、他にも何人も孫がいて、そのうち、CATHY さんが大きなサポートとなり、今回の悲劇に終止符を打つことができましたが、家族にとっては、次に、刑事訴追の問題がさらなる暗雲をもたらすことになるでしょう。

上場しているような国際的な大手金融機関においても、このようなことが起こるわけで、今後、高齢化社会において、ますます気を付けなければいけないところです。