対米不動産投資家の中山道子です。
今日は、どんな物件が、一番値上がりしやすいかに関連し、GENTRIFICATION(エリアが向上すること)という言葉をめぐる統計的な実証研究をご紹介します。
不動産を買うときは、当然、値上がりしてほしいわけですが、普通に「インフレに連動した」というだけではつまらない。そんな時、「このエリアは、特に値上がりする可能性がありますよ」と言われれば、嬉しいですよね。
《特に値上がりする可能性があるエリア》の特徴というのは、
1)もともと高級エリアで、人気が講じてさらに値上がりする
2)微妙だったはずのエリアが向上し、思ったより値上がりする
の2つのケースが考えられます。この記事で取り上げるのは、後者。
不動産や都市計画上、エリアの人口統計学的な属性が向上することを、GENTRIFICATION《ジェントフィリケーション、エリア向上》と言うのです。
よく知られている例としては、ニューヨークのミートパッキング・ディストリクト(Meatpacking District)、でしょうか。
その名の通り、倉庫が並んでいて、肉屋さんが多く営業する商業エリアだったはずが、いつの間にか、おしゃれなナイトライフやショッピングがエンジョイできる高級な場所となったということですね。周囲の居宅も、高額物件が次々誕生することになりました。
ミートパッキング・ディストリクトの変貌については、下の記事でご参照ください。写真も豊富です。
Photographing the Extreme Transformation of the Meatpacking District
こんなことが、我が物件のあるエリアに起これば、しめたものですよね。
しかし、実は、結論から言うと、「低予算で家が買えるような街では、エリア改善は、起こらない確率のほうが高い」と承知しておく必要があるのです。2)のシナリオは、稀なのですね。
まず、援用しようと思うのは、1970年から2010年にかけて、「貧困エリア」と判断された1,100区画のエリアを、実に40年にわたってフォローした研究。
原文は、下のPDFから御覧ください。あるコンサルティング会社の研究員が、都市計画の大学の先生と共同発表した論文です。
Neighborhood Change, 1970 to 2010Transition and Growth in Urban High Poverty Neighborhoods
1970年段階で、貧困率が高い1,100のエリアを主要都市でピックアップ、その後をフォローするという研究概要です。
40年後になってみると、これらの1,100のエリアのうち、750が、依然、「貧困エリア」に該当しました。大雑把に言って3割が、「脱貧困エリア」を果たした?と言うことです。
この数字自体、まず、それほど高くないですね。打率3割の投資は、割が悪いです。
しかも、さらに詳しく見ると、それほど貧困でなかったエリアが、逆に貧困エリアになる率のほうが高かったりもします。いろいろやってみると、実際のところは、「ダメ・エリアが、ダメでなくなる確率」は、実は、10%位に落ちてしまいます。
他に良い研究がないかと、見ていくと、例えば、ハーバード大学の研究者がグーグルの協力を得て行ったシカゴ貧困エリアの調査というのがあります。
ここでは、「白人が、人口比35%以下のエリアでは、ジェントリフィケーションは起きなかった。黒人比率が4割上の地区でも、難しかった」という、人種多様化(脱黒人化)が一つの目安となっていたという話です。
Stark findings in Google-enabled study of Chicago neighborhoods
この他、2013年のクリーブランド連邦準備銀行の調査においては、「NYやサンフランシスコ、ボストンなどの大都市では、ジェントリフィケーションがより頻繁に起きるが、それ以下のランクの都市ではそれほど生じない」という傾向が出ています。
Gentrification and Financial Health
主要都市では、ジェントリファイの率は、下の通り。
ニューヨーク18%
サンフランシスコ13%
ボストン26%
ワシントンDC19%
シカゴ16%
それに対し、日本人や富裕層に人気のはずのホノルルの場合、この時期、「下半分」の物件が「上半分」にアップした確率は実に4%にとどまっています。マイアミやヒューストンなど、近年熱い都市も、2000年から2007年までの間のジェントリファイというのはそれほど起こっていない様子。
このように見ていくと、不動産が値上がりするに当たり、誰でもが、ある程度、普通に恩恵を受けることができるインフレ、景気という2大要因に比べ、ジェントリフィケーションのメリットを受けることが出来るエリアというのは、相当限られる可能性が高いわけです。
投資の場合、もちろん、エリアを選んで行うため、この統計はそのままには当てはまりません。現地のことに詳しい人が、具体的な材料がわかって、数年後に向け、戦略的に行動しているようであれば、エリアのジェントリファイの可能性は、1割よりずっと高いだろうと思います。
それでも、このベースラインになる数字は、「数年以上先のエグジットを前提に、特別なお値打ち物件、格安物件を探そうとする投資家」にとっては相当恐ろしい数字ではないでしょうか。
結論
遠隔の投資家やアマチュアが本業外の時間で人より高い成績を取ることは難しいことを理解しておきましょう。
特に、物件が割安の「微妙なエリア」で購入し、エリア全体が向上することを期待するのは、リスキー戦略です。
私は2004年から専業で不動産投資をしており、現在、資産家の不動産投資ポートフォリオ管理のお仕事をさせていただき、ハンズフリーと、大変喜んでいただいています。
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補足 この記事では、都市計画の権威、RICHARD FLORIDA先生の下の記事で紹介されていた研究をピックアップしました。
This Is What Happens After a Neighborhood Gets Gentrified
もともと2018年に前のブログで書いた投稿を2020年に編集し直しました。